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2022年08月16日

はじめに


Vedi Napoli e poi muori


「ナポリを見てから死ね」という意味で、ナポリ湾のあの美しい光景を称賛する言葉として有名ですが、それほどまでにナポリは本当にとても美しい街だと思います。


もし、あなたがそんなナポリに1日しか滞在できないとしたら何をしますか?コーヒーを飲み、美しい光景をみて、ピザを食べて、それから・・・?


西洋美術史を少しでも学んだことがある人ならだれでも、バロック美術という言葉を耳にしたことがあると思います。西洋美術史における技術的頂点ともいわれるこの美術様式のなかでも最も有名な画家でありバロック美術を切り拓いた巨匠が、カラヴァッジョです。


ナポリに1日しか滞在できないとしたら、私なら、ダンテ広場からスパッカ・ナポリを通って、ピオ・モンテ・デラ・ミゼリコルディア聖堂に向かいます。そこでカラヴァッジョの《慈悲の七つの行い》(1606〜07)を見て、その空間にしばらく身を置くでしょう。


カラヴァッジョの名作、慈悲の七つの行いのピオ・モンテ・デラ・ミゼリコルディア聖堂内の写真
2019 年 8 月 筆者撮影


そして、その向かいのドゥオーモに足を運びます。もちろん、夜のピッツァ・フリッタ(揚げピザ)も忘れずに!


カポディモンテ美術館など、他にも美術史における見るべきポイントはナポリには数え上げればきりがないほどにありますが、カラヴァッジョの不朽の名作といわれるあの絵を、あの空間で、体験することができるのは、ナポリに訪れなければできません。カラヴァッジョの作品は特に、美術館でみるよりも、教会の中の空間の一部として見るほうが圧倒的に迫力を感じます。彼が実際の空間の中に置かれることを想定して光と影の構図を考えているからでしょう。


「この聖堂を拠点としていた慈善団体の活動を象徴的に表したもので、ごみごみしたナポリの裏通りを描写している。猥雑で活気にあふれるスパッカ・ナポリを歩いてきてこの作品を見ると、カラヴァッジョがいかにナポリの雰囲気を絵画に反映させているかが感得できる。」(宮下, 2006, p.108) 1


カラヴァッジョ研究の第一人者、宮下規久朗先生の言葉です。


ナポリの下町、スカッパ・ナポリの様子
2019 年 4 月 筆者撮影   スカッパ・ナポリ


このブログを書いている 2022 年時点ではわかりませんが、コロナ禍以前のスカッパ・ナポリは人通りが非常に多く、猥雑とした雰囲気でした。このごみごみとした中を通り過ぎ、いきなりしんと静まり返った聖堂の中であの絵画をみるのです。7つの慈悲の行いの各場面を、1つの画面に収めるという斬新な手法により複雑な構図になっていて、ナポリの雰囲気を絵画にも読み取ることができる大きな要因になっています。


ナポリに行かないとこの絵画の良さがわからない!と豪語したいわけではありません。ただ、せっかくナポリに行ったのに、あれを見ずに帰っちゃったの?というのはもったいないかなと思うのです。仁和寺にある法師2と同じです。そんな気持ちにならないための、「先達」になれればと思ったのが、このブログをはじめた理由です。


このブログは、美術史家や、美術史を専門的に学びたい人のためのブログではありません。また、美しい!力強い!などという感想を書いている日記ブログでもありません。Artmap(アートマップ)は、西洋美術を、よりおもしろく鑑賞したい人のためのコンテンツサイトです。芸術鑑賞は、感性に従って絵画を楽しむので十分とも思います。ただ、ある程度の前提知識があるのとないのとでは、その面白さが違います。


映画やドラマで考えるとわかりやすいかもしれません。私は先日、クリストファー・ノーラン監督の SF 作品『インターステラー』を見ました。はじめてみたときはどうも時間のずれの話についていくことができず、楽しむことができなかったのですが、相対性理論の簡単な知識を調べて、改めて見直したところ、おもしろい…!もちろんその知識がなくても面白いのですが、前提知識があると理解が深まり、さらにおもしろく感じました。


同じように、ギリシャ神話やキリスト教、歴史などの前提知識があると、西洋絵画は格段におもしろくなります。たとえば、ロンドンにある下記の絵画も、何も知らない人がみたら、なんで裸?後ろで頭抱えている人は誰?右の子供が投げているのは何?などいろいろ疑問に思うことがあるでしょう。別の記事で詳細は解説したいと思いますが、1つだけ。右上の羽のある老人は砂時計と描かれている、時の擬人像。時とともにヴェールがはがれ、愛の姿…官能的な悦びや嫉妬、欺瞞などを表している絵画です。読み解く楽しさを感じさせてくれる絵画の一つです。


カラヴァッジョの名作、慈悲の七つの行いのピオ・モンテ・デラ・ミゼリコルディア聖堂内の写真
アーニョロ・ブロンズィーノ《愛の寓意》(1540-1545), 画像出典:Wikipedia


Artmap(アートマップ)は、主に絵画を中心とした美術を紹介するコンテンツサイトです。主に 3 つの構成にわかれています。



  1. 概要。宗教や歴史などの背景説明

  2. 場所ごとのおすすめ美術館や絵画

  3. 展覧会情報


概要では、ルネサンスやバロックなど美術様式の紹介から、画家や絵画の解説をします。場所ごとのおすすめでは、例えば、パリのおすすめ美術館、や、ルーブルで必ず見ておいたほうがいい絵画などをピックアップして紹介します。展覧会情報は、気になるものがあれば気まぐれに紹介します。


もっとこの画家について知りたい、もっとこの絵画について知りたい、すべての絵画をみる時間がないけれどあの美術館に来たならこれだけはおさえておきたい、せっかくこの土地にきたんだったらあれだけは見ておきたい。そんな気持ちになったことがある方へ。Artmap が、美術旅行のガイドマップになれば幸いです。




1

宮下規久朗『世界歴史の旅 イタリア・バロックー美術と建築』山川出版社 2006



2

徒然草第五十二段より。「少しのことにも、先達せんだちはあらまほしき事なり」として、些細なことでも教えてくれる人は必要ですね、という教訓を述べた話として有名です。